キラッ、キラッと銀色に輝くロケットが、口の中に吸い込まれていった。
先週の会社の健康診断で、採血とインフルエンザの予防接種の2つの注射をうった。
正直、僕は注射が苦手だ。理由はただ1つ。
小学2年生の夏、親から何の事情も告げられないまま(告げられたが理解できなかったのかもしれない)、僕は入院させられた。ちょっとした「お泊り」気分でウキウキしていたような記憶がある。
翌日、僕は手術室の椅子に座らされた。視界に入った机の上には、病院特有の銀色のトレイ、そしてそこには銀色に輝くロケットのような注射器が置いてあった。その大きさ、先端の針の長さ、そしてその不気味な輝きと、子どもの僕を恐怖のどん底に追い落とすには十分な迫力があった。
「大きく口を開けてね。」
こう告げた医者が次にとった行動が、僕をパニックに陥れた。僕のそれまでの経験では、口を開ける=喉のチェック、つまり医者の手に握られるものは舌に押し当てる銀のヘラとペンライトと相場は決まっている。しかし、医者が握ったものは銀のロケットだった。
「はあ?」
頭が混乱した僕がとった行動は、口元に迫った医者が握ったそのロケットを叩き落とすという暴挙であった。助かった。床に転がったロケットを見ながら束の間の安らぎを得ていた僕は、その後2人の看護師に羽交い絞めにされ、「口を無理やり開けるマシーン」を装着され、ロケット2号を受け入れることとなった。
扁桃腺を切除する手術と知ったのは後の話である。ロケットの正体は麻酔の注射器で、上記の光景とそのときの激痛がトラウマとなり、現在に至っている。
僕は注射が苦手だ。もちろん注射中はその様子を「見ない派」である。