先日授業の準備をしていると、スマホのニュース速報が飛んできた。
「ノーベル化学賞に日本人研究者!」
東京理科大学の硤合憲三さんが受賞した日だ。
これは生徒に伝えねばと、急いでメモをして教室へ。
生徒たちにその偉業を伝えようとメモを読み上げるようとするのだが…
「硤合反応(ソアイ反応)とは、ジイソプロピル亜鉛をピリミジン-5-カルバルデヒドに付加させるアルキル化反応である。生成物のピリミジルアルカノールが自らの生成を触媒するため、エナンチオマー過剰率のわずかな触媒から出発しても、非常に高いエナンチオマー過剰率の生成物が得られる!!」
専門用語をカミカミで読み上げ(笑)、生徒たちを見ると、笑いをこらえているのがバレバレだ。
「すごいことを研究しているのがよくわかるよな」と言いながら生徒たちと笑いあった。
その後改めて概略を調べて、
「生命の起源の研究に手がかりを与える成果」なのだと伝えると、生徒たちも「おぉ!」と腑に落ちたようだ。(笑)
ノーベル化学賞といえば、昨年2025年も日本人が受賞した。
京都大学の北川進さんだ。
北川さんは、研究対象に選んだのが「1価の銅」というイオンだった。
色がなく、磁石の性質もない、目立たない存在で、研究者の間でも人気がなく、その研究で有名な先生からも
「なんでそんなのやっているの?」とからかわれたという。(汗)
それでも北川さんは、この地味な材料が、原子がきれいに並んだ固体を作るのに向いていることに気づいた。
ここから、転機は訪れる。
それは1989年ごろ、それはたまたま結晶の中に穴があいているらしいことに気づいたのだそうだ。
そしてその穴の中には、別の分子が入りこんでいたのだそうだ。
当初は、すき間のないぎっしりした材料を作るつもりだった。
だから、これは予想外の発見だ。この発見を、偶然で終わらせなかった。
北川さんが、大切にしている言葉が、
「幸運は、用意された心にだけ宿る」だ。
準備をして考え続けている人だけが、偶然の意味に気づけるという意味だ。
試行錯誤の末、1996年に、穴があいていても形を保つ材料が完成し、翌1997年に論文として発表された。
しかし、発表直後の周囲の反応は冷ややかだった。
「そんなはずはない」「使い道がないだろう」そう言われ続けたそうだ。
結局、北川さん自身、評価され始めたのは50歳ごろだったと語り、自分を「遅咲き」だと振り返っている。
この材料は、金属有機構造体、略してMOF(モフ)と呼ばれる。
使い道は、ノーベル賞の発表でも例に挙げられている。
砂漠の空気から水を集める、二酸化炭素を回収する、有害なガスをためておく、化学反応を助ける、など。
二酸化炭素の回収がうまくいけば、地球温暖化を防ぐ助けになるかもしれない。
調べれば調べるほどすごい発明だったのだと驚いた。
北川さんが大切にしている言葉が、もうひとつある。
「無用の用」だ。
一見役に立たないものが、実は大きな役に立つことがある、という意味だ。
色もなく目立たない銅イオンと、穴という空っぽの空間。
どちらも「無用」に見えたものが、世界を変える材料の主役になった。
北川さんは講演で「無用のものなど存在しない」と話している。
小中学生に向けた講演では、「化学に興味をもって、どんどん夢を広げてほしい」と呼びかけた。
中学のころ、数学が得意な友だちが隣の席にいたことや、友だちにすすめられたSF小説で本をたくさん読むようになったことが、夢を広げるきっかけだったそうだ。
みんなも、いろいろなことに興味を持って、好きなことをこつこつ続けてほしい。
そうすれば、ある日「用意された心」が思いがけない発見に気づき、それまで「無用」に見えたものが、世界を変える力を持ち始める瞬間が来るかもしれないぞ!
