突然だが、『チュートリアル客』という言葉があるのを知っているだろうか。
そもそもチュートリアルとは、徳井さんと福田さんの二人から成るお笑い芸人…の方ではなく。検索してみると、「アプリや設定などを初めて操作する人に、わかりやすく教えてくれるガイドを指す。例えば、新しく購入したスマートフォンを使い始めるときに、設定や操作方法を画面に沿って教えてくれるもの」
[weblio辞書「実用日本語表現辞典」]
…とある。ゲームの説明書を隅から隅まで読まなくても、進行していく中でストーリーや操作を教えていくのもチュートリアルの一つ、というと分かりやすいだろうか。
話を戻して、『チュートリアル客』についてざっくり説明すると、“研修中の新人店員さんに対応してもらう際に、良い練習台になろうといつも以上にハキハキ話し、支払い方法やレジ袋がいるかなどを細かく伝え、丁寧に振る舞うお客さん”のことをそう呼んでいるらしい。
その言葉を数年前にSNSで知って以来、私も明らかに新人っぽい店員さんに出会ったときには、これはチャンス!と、完璧な『チュートリアル客』になることを目指すようにしている。(もちろん研修中の店員さんではなくても、丁寧に振る舞うようにはしているが…。)
そして、先日某ドラッグストアで、そのチャンスがやってきた。
私は校舎で使う備品を購入するためにそこを訪れており、お会計と同時に領収書の発行をお願いする必要があった。
レジには研修中の店員さん。私も大学時代はアルバイトでレジ打ちをしていたから分かる。領収書の発行は、お釣りの渡し忘れがあったり、店舗控えとお客様用のレシートで混乱したりとミスが起きやすい。
そのため、店員さんが焦らない最適なタイミングで領収書をお願いしなければ…!と、一丁前に『チュートリアル客』としての緊張感を抱いた。一方でそれが店員さんには伝わらないよう、穏やかなオーラを放ち、余裕のある風を装っていた。
一通り商品のスキャンが終わり、合計金額が告げられ、受け渡し用のトレーに現金を置く。「お預かりします」という言葉の後、レジの機械に現金が投入され、ガー…と音を立ててお釣りが出てくる。それを受け取ると同時に、私は口を開いた。
「あの、すみません、領収書をお願いします」
私の言葉を聞いて、店員さんは明るい声で返事をした。お釣りを先に渡してから、小さなメモ帳を取り出す。手書きの文字を指で追いながら、慎重にレジを操作する姿を見て、(うわ~慣れないと緊張するよね~ゆっくりでいいからね~~)と変わらずドキドキしつつ、涼しげな顔でそれをなんとか隠した。
そして最後に、ギュッと印鑑を押してもらった領収書を無事に受け取り、マスク越しでも分かるようにちょっとやりすぎなくらいの笑顔でお礼を言って、お店を後にした。
働き始めの頃に、慣れない対応をするときの焦りといったら半端ではない。お客さんを待たせているというプレッシャーの中で、冷静な判断ができずにひとり嫌な汗をかいて息苦しくなる。
しかし、「焦るよね~わかるわかる!」と言わんばかりに穏やかに笑顔で待っていてくれるお客さんには、本当に救われる気持ちになる。時間こそかかっても、そこで大きなミスをせずにやりきれた経験が、少しずつ自信になるからだ。
私は大学時代に出会ったお客さんに何度も自信をつけてもらってアルバイトを続けることができたから、私もどこかの店員さんにとってのそういう存在になれたらいいなと思いながら、きっとこれからもチャンスがあるたびに『チュートリアル客』になるのだろう。
さて、ついに明日から夏期講座。
みんなは、あの研修中の店員さんがメモを見ながら対応してくれたように、まだ習いたての単元では例題の解き方を見たりヒントを聞いたりしないと解けない、ということもあるだろう。
しかし、安心してほしい。私たち教師が、成功体験を与える『チュートリアル客』のように、みんなの「できた!」「わかった!」の瞬間を生み出していくから。
一つでも多くの問題を解けるようになってほしい、一つでも多くの知識を身につけてほしい。そう考えて、時間をかけて授業の準備をしてきている。その授業に集中して臨んでくれれば、今は100%理解しきれていないことも、夏が終わる頃には自分のモノになっているはず。
できることが増えるたび、わかることが増えるたび、確実に自信につながっていく。その自信が、難しい応用問題にも向き合える強さに繋がっていく。それを繰り返して、どんどん頭と心を鍛えていこう。
この夏、みんながどれほど成長するのか楽しみだ。心は熱く、頭は冷静に。実りある夏期講座にしよう!