「「「上がった!!!」」」
レシーブされたボールが、コートの上で弧を描く。表面の汗が照明を受けて光る。私はそのボールを見ながら、ネット際へ走る。四方八方からいろんな声が聞こえてくる。私のトスを呼ぶ声、スパイカーに助走を促す声、自分の守備位置を知らせる声。
ほんの数秒の間にコート全体を見渡して、考える。
この状況、誰にトスを上げるのが最善?相手のブロックどんなコンビネーションで相手を乱せばいい?
高く上がっていたはずのボールはもうすぐそこまで落ちてきていて、私の思考を急かす。
ダメだ、冷静に考えろ。私が繋ぐ、私が止まったらいけない。
「頼んだ!」
そして、心を決めてトスを上げ、もう次の瞬間には、スパイカーの背後を守りに行く。攻撃がブロックに当たって跳ね返ってきても、また拾って繋げるように。
「もう一本もう一本!」
スパイカーの攻撃が相手ブロックの間を抜けた。しかし、相手もしぶとくこちらの攻撃を拾う。まだ決まらない。長い長いラリーだ。足が重い、息が苦しい。
「ゆっくりー!時間作って!」
「ブロック揃えるよ!せーのっ…!」
「「「前!!!」」」
今度は、味方ブロックの上ギリギリのところからチョン、とボールを落とされる。
前だ、前!ボールに向かって一直線に走る。姿勢を崩しながらも、何とか右手をボールの下に滑り込ませる。ポンッ、と手首にボールを当てる。うつ伏せに倒れ込んだところから、もう身体が思うように動かない。
ふらふらになって、頭が働かなくなってくる。
ああ、天井高いな、距離感が狂ってくる。照明まぶしいな、ボールと被って視界がチカチカする。目が回る、酸素が足りない…。
「次次!!」
そんな状況でも、ボールはまだ繋がっている。落ちていない。まだ諦めたらダメだ!足!動け!!
・・・―――あの頃、私が見ていたのと同じ光景が、スクリーンに映し出されていた。
『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』
公開されて以降、いつになったら観に行けるかと、スケジュールとにらめっこするほど待ち遠しく思っていたが、ついに3月1日に観に行くことができた。「ハイキュー!!」は、アニメでも漫画でも2回3回と繰り返し見ていたほど大好きな作品。
今回のストーリーは、「ハイキュー!!」の主軸となる烏野高校と、そのライバル校・音駒高校を中心に描かれている。何度も練習試合をして高め合ってきた二校が、全国の高校生バレーボーラーが夢見る春高(全日本バレーボール高等学校選手権大会)の舞台で、「負けたら終わり」の「もう一回が無い試合」を繰り広げる。
私は、学生時代部活でバレーボールに打ち込んできたのもあって、うわぁ懐かしい…!リアルだ…!と興奮しながらスクリーンを見つめていた。
それと同時に、第一話から見ていた登場人物たちのたくましい姿を見て、「いつの間にそんなことできるようになったの?!」と、まるで我が子のことのように成長を喜び、感動していた。
懐かしさと、感動と、高揚感と。感情がぐちゃぐちゃになって、あっという間の1時間半だった。
走っては止まって、足がどんどん重くなって、息を吸っても空気がのどにつっかえるような、苦しくて、でも楽しくて、ドキドキして、ワクワクして、ああ、このまま試合が終わらないでほしいな、と思う。
あの感覚が味わえるのは、本気で練習に取り組んで、バレーボールに向き合ってきたからだ。「ハイキュー!!」の登場人物たちも、それぞれの課題を抱えながら、仲間や時にはライバルとも切磋琢磨して成長していった。
ちなみに、
「切磋琢磨」という言葉の由来は、中国の詩にある「切(せっ)するがごとく、磋(さ)するがごとく、琢(たく)するがごとく、磨(ま)するがごとし」という一節とされていて、「切」は獣の骨や角を切り刻むこと、「磋」は玉や角を磨くこと、「琢」は玉や石を削って形を整えること、「磨」は石をすり磨くことをそれぞれ意味しているらしい。
今は、物事に励み友人同士で競争し合って実力を磨くこと、という意味で使われることが多い。しかし、元は装飾品を作ることから生まれた言葉で、
磨くためにまずは削ったり傷をつけたりすることが必要だということ。
つまり、
何かを得るためには、苦しくて、辛くて、逃げたくて、泣きたくなる瞬間に出会っても、乗り越えなければならないということ。ただ、それは自分を磨くためには必要な過程で、それが自分を成長させてくれるのだということ。
バレーボールでも、苦しいけれど、それでも全力でコートを駆け回って、全力で飛んで、全力で声を出して、諦めずにボールを繋ぎ続けたその先に、大きな1点がある。チーム一丸となってとった1点が喜びを生み、感動を生み、次への活力になってくれる。そうやって、心も身体も技術も成長していく。
「ハイキュー!!」には、登場人物一人ひとりの苦しみや葛藤もリアルに表現されているからこそ、観る人はみな、その後の奮闘、そして成長に心動かされるのだと思う。やっぱり、全力で何かに取り組む人は格好いい!
さて、みんなには、それくらい全力になって没頭できるものがあるだろうか。
スポーツでも、音楽でも、芸術でも、もちろん勉強でも、とにかく本気でぶつかって
「切磋琢磨」して、今よりもっと強くて格好いい自分に出会ってほしい。