最近、長年使っていた登山靴を手放した。
富士山はもちろん、日本アルプス、ノルウェーなど様々な山を共に乗り越えた
相棒であった。
しかし、数週間前の登山でとうとうソールが剥離し、新調することとなった。
それからは毎日、朝早く起きては新しい相棒探しの旅へと名古屋に出向いた。
1足、2足、うーん違う… 5足目、なんかつま先がブレるなぁ…
何店舗もまわり、何足履いてもしっくり来ず、妥協寸前だった私に、「みなさん、ザックを背負って靴も履いた状態でずっと歩いてらっしゃるので、もう思う存分試してください!」と、親切な店員さんの声かけ。長いときで20分もの間、店内をうろうろさせてもらったこともある。
そして運命のときがやってきた。
「これはちょっとつま先が狭いかもしれないですけど、履いてみますか?」
店員さんが手に持っていたのは、革製で渋い茶色の色をしたレトロな形の靴。
まさに私が求めていたフォルム。(これなのかもしれない…!)
そんな期待に胸躍らせ、靴ひもをほどき、足を入れる。
「
…ジャストフィット!これだあああ!!!」
靴が私の足を歓迎してくれていると勘違いしたほどのフィット感。私のためにドイツ人が作った靴なのだろうと本気で思ったほどだ。
何分歩いても違和感ゼロ。歩けば歩くほどなじむ魔法の靴。試し履きの時点で、もはや私の体の一部になっていることを確信した。
そんな運命の出会いから数日が経ち、新しい相棒とはすでに2つの山を制覇した。
苦しい登り、足に負担が大きくかかる下り。靴にまとわりつくヒルたち。そして登頂時の達成感。
辛いことも幸福感も一緒に味わう大切な相棒となったのだ。
相棒といえば、6年前の卒業生がこのような作文を残していた。
“中学生となり特訓テストが始まりました。毎回何とか合格しようと必死に打ち込み努力しました。その頃から着実に学力がついてきました。
しかし油断からか、中3生の1学期期末テストは本当にひどいものでした。その時僕は「合格するまで毎日自習室に通おう。」と強く心に誓いました。ただひたすらテキストに、テストの連続に全力で取り組んだ夏。折れかけそうな心を奮い立たせてくれた先生方の授業。この一年間は本当に走り続けました。本番前使い込んだシャープペンは壊れかけていました。
合格発表の日は不安もありましたが、「ここまでやったんだから絶対受かる。」そう思い掲示板を見ました。
「本校に合格」それを見て今までの努力が報われた気がしました。この夢現塾にはこの作文に書ききれないくらいの思い出をもらいました。夢現塾を本当に最後まで信じてよかったです。”
ときどきこの卒業生との会話を思い出すことがある。
「もう使いすぎて、このシャーペン壊れかけてるんですよね。」そう言う彼を、自習室で見ない日はなかった。休憩中に覗きに行くと、ノートには文字がびっしり。「どうしても点数が取れるようになりたいんです。」質問に来るときも、授業中も自習中も模試のときも、いつもそのシャーペンを握りしめていた。彼の手汗が滲んだシャーペン。彼と共に苦楽を乗り越えてきたシャーペン。私の登山靴のように、まさにそのシャーペンは彼にとっての相棒であったのだろう。
「お気に入り」の文房具は誰にでもあるだろう。その中でも相棒と呼べるようなものはあるだろうか?
登山家にとっては、登山靴。テニス選手はラケット、演奏家は楽器。そして学生にとっては文房具。
君たちのそばで、君たちと一緒に
苦楽を乗り越えていく相棒を見つけてはいかがだろうか。