教室に入ると、魚が床に落ちている。
毎週毎週、落ちている。
「っぎゃあああああ!」
初めてその魚と会った日、私の叫びが教室にこだました。
「先生、それはペンケースです。」
次の週。
「っぎゃあああああ!」
「先生、それはペンケースです。」
デジャブだ。
その次の週。
「っうわぁ…」
「先生、それはペンケースです。」
徐々に見慣れてきた。
その次の次の週。
「………(どや顔)」
私は魚の尻尾側を右手に持ち、ピチピチ動いているかのような動作で、速やかに魚を捕獲した。
※写真はイメージです。
そして、毎週のようにその魚を落としておいてくれるサービス精神旺盛な男子生徒に、私もサービス精神旺盛に、ピチピチとイキよく跳ねる魚を装った動作で手渡すのだった。
しかしそれ以降、もう私が驚くことはなかった。
だって慣れてしまったんだもの。
男子生徒には申し訳ないのだが、3週目を越してからは、その魚がどこに置いてあろうと、突然手に握らされたとしても、微動だにしなくなった自分がいたのだった。
が、ある日。
今度は魚が見当たらない。どこにも置いていない。
いない。いない。いない…。
「魚は?!」
男子生徒の机の上に目を向けると、いたって
「普通の」ペンケースからシャーペンたちが顔を出していた。
「あ、えっと。チャックの部分が壊れてしまって…」
少し悲しそうな表情で話す男子生徒。
その話を聞いて、私も少し悲しみが込み上げてきた。
なんだろう… ただのペンケースなのに…
やはり、目鼻口があるもには愛着が湧いてしまうものなのだろうか…
魚が落ちていない寂しい週が続いた。
もうあの魚には会えない。
そんなことを思いながら、いつものように教室の扉を開けた。
床に丸太が落ちている。
「っわぁ…」
「先生、それはペンケースです。」
魚が丸太になって戻ってきた。
生まれ変わって戻ってきた。
驚きよりも、嬉しさが込み上げた。
「また新しいの買ったんだね!」
「はい、魚と同じくネットで買いました。」
なんでも変わったものが簡単に手に入るネットに感謝した瞬間だった。
そんな魚が丸太に生まれ変わって、次の週。
「ぇぇぇえええーーー!!!」
わたしの叫び声が教室に再びこだました。
丸太から…あの丸太から…
キノコが生えている。
魚の生まれ変わりである丸太から、キノコが生えたのだった。
生命は巡る。まさに、
サークルオブライフである。
「先生、それはボールペンです。」
教室に大きな笑い声が響いた。
彼の周りは、いつも笑顔で溢れている。
もちろん、私も彼に笑顔をもらっている1人である。
常に笑顔の種はないか模索する、
優秀なエンターテイナー中学生。
彼の、人を楽しませたいという気持ちは、ペンケースにキノコを生やさせた。そして周りには笑顔の花を咲かせた。
彼に負けてはいられない。来週からはいよいよ夏期講座。わたしもこの夏、たくさんのキノコ…ではなく、笑顔の花を咲かせたい。そして、もう一つ。やる気という名の蕾も、同時に開花させたい。