昨年の11月のこと。
熊本での滞在を終えて、帰りの飛行機で中部へ戻る日。
飛行機にはもう何度も乗っていて、保安検査も搭乗もスムーズ。この日も、ただ寝て帰るだけのつもりで、服装は完全なる部屋着スタイル。快適さ最優先。誰に会うわけでもないし…と。
搭乗が始まり、くまモンの紙袋を抱えた人たちが次々と機内へ。私もその流れにのって、ぺこっと頭を下げながら「こんばんは、こんばんは…」と挨拶してくれるCAさんの横を通り、自分の席を探す。
…が、ない。
「
2C」が、どこにもないのだ。
5番以降のエコノミー席ばかりが並ぶ中、1番と2番はある。けど明らかに様子が違う。ツヤツヤした革っぽいシート、広い足元、空気感が別物。
(え…? まさか間違えた…?)
焦りながら、心臓バクバクで近くのCAさんに声をかけた。
「す、すみません…席が分からなくて…」年甲斐もなく、半べそで話しかけると、
「あ!加納様ですね!ご案内いたしますね〜!」と明るく笑顔で返され、他の乗客をかき分け案内されたのは、さっき素通りした、あの、革張りのシート。
…え?ここ?
まさかの“
プレミアムクラス”。
驚きで立ち尽くす私に、追い打ちをかけるようにCAさんが一言。
「よろしければ、上着をお預かりいたします。」
(!?上着を預かる!?)
機内でそんなこと言われたの、生まれて初めてだった。おそるおそる上着を渡しながら軽く混乱。
とにかく落ち着こうと座ってみたその座席は、もはやホテルのソファ。しかも、手元にはいくつかのリクライニングボタン。背中だけでなく、足元までふんわり伸びてくるフットレスト付き。視線を落とせば、なんとスリッパまで用意されていた。
心がふわっとほどけていくのを感じた、そのとき。別のCAさんが、にこやかに近づいてきた。
「加納様、ご搭乗ありがとうございます。今回、こちらのお席を担当させていただく〇〇でございます。」
(…え、専属!?担当が付くの…!?)
と、静かにまたフリーズ。
そして、離陸後もさらなる感動。
機内食の時間になって運ばれてきたのは、彩り豊かなお弁当。そしてふわっと味噌の香りも。
そう、まさかの味噌汁までついていたのだ。空の上で和定食。なんという贅沢。あったかい味噌汁に、身体だけじゃなく心までじんわり温まった。
座席は快適、接客は丁寧、お腹も満たされ、気づけばうとうと…。
ふと目を覚ますと、窓の外に滑走路の明かりが広がっていて、あっという間に中部国際空港。
2列目の私はすぐに外に出られ、「え、もう着いたの!?」と名残惜しい気持ちを引きずりながら手荷物受取所へ。
すると、ターンテーブルで最初に出てきたのは、まさかの、私のスーツケース。
なんて私は今日ついているのだろうか!とスキップしたい気持ちを抑え、空港をあとにしたのだった。
あとで調べて分かったことだが、優先して荷物が出てくるシステムも含め、プレミアムクラス特典のひとつだったのだ。
思い返せば、1ヶ月前。
お気に入り登録していた便の最安値が売り切れ、「値上がりしました」という通知に焦って、9000円ほど高いチケットを買った。
当時は「もう…仕方ない…」と悔しく思っていたのに。まさかそのチケットが、プレミアムクラスの扉を開く鍵だったなんて。もしあのまま最安値をキープできていたら、私は一生プレミアムの世界を知らずにいたかもしれない。
たった2時間の移動。されど、そこには「非日常」が詰まっていた。
今日は入学式。始業式。新しいクラス、新しい環境。
ちょっと緊張してる人もいるかもしれない。しかし、
思いがけず扉が開く瞬間は日常のすぐ隣にある。
いつものつもりで選んだ便が、実はプレミアムだったみたいに、何気なく始まった今日が、君たちにとって特別な“
プレミアム”になることだってあるかもしれない。
だから、深呼吸して、胸を張って。
今日から始まる毎日が、君だけの特別な時間になりますように。
笑顔で、いってらっしゃい!