これは、ある卒業生の話だ。
「東京に住みたいなら、大学はMARCH?」
将来東京で過ごしてみたいと話す彼女に、選択肢の一つとしての言葉だった。
この言葉が彼女の脳裏にこびりついたみたいだ。いや、こびりつかせてしまったと言うべきかもしれない。
高校入学後、彼女は高校生活を楽しみながらも、大学進学に向けた日々の勉強に追われていた。
高校三年生、指定校推薦の校内発表の日。
評定は申し分なかった。しかし、ライバルがいた。不安がゼロと言えば嘘になる。それでも、自信がないわけではなかった。不安と期待を胸に、結果を待つ。
結果は――
「不合格」
頭の中が真っ白になった。何も考えられない。高校に入った意味すら消えたように感じた。これから一般入試に挑むなんて無謀すぎる。だけど、このまま終わるわけにはいかない。
「努力をすれば結果はついてくる」
そう信じて、自分自身を奮い立たせた。それから毎日、約10時間の勉強を自らに課した。おかげで共通テストでは努力が実を結んだ。
リスニングで100点中96点。 筆記で100点中92点。
高校の先生から、早稲田大学の受験を勧められた。光栄な話だった。
しかし、ちがった 。彼女が目指すのはMARCHだった。受験校はMARCHから2つの大学。
結果を待つ。手応えはあった。 これまでの努力を鑑みても受かる自信はあった。
何度も折れそうになった心。もう限界だった。
「どうしても受かりたい」
結果は――
どちらも、「不合格」
「どうしてこんなにも努力が報われないんだ」
「もう何をやっても意味がないんじゃないか」
嫌いな言葉は「努力は必ず報われる」。
進学先が全くないわけではなかった。それでも、どうしても受かりたかった。わずかな希望を抱きながら、第2回合格者発表日を待つ。これがダメなら、第3回、第4回と待つことになる。しかし、心の疲弊はピークに達し、もうこれ以上は耐えられそうにない。
そして迎えた、第2回合格者発表の日。
何度も確認したそうだ。
結果は――
見事、「合格」
4月から、憧れの東京での生活が始まる。
一緒に報告に来てくれた妹さんが言った。
「1番目はお父さんで、2番目はおじいちゃん。3番目はおばあちゃん、私は4番目。5番目はお母さん」
「そして先生、6番目だよ」
卒業してから、まともに会って話をすることはなかった。
それでも、お母さんや妹さんから状況は聞いていた。
日常的に会う機会がないから、ただ応援をするだけだった。
でも、彼女が目指す大学を意識するきっかけを与えたのが自分だったため、ずっと気になっていた。
報告に来てくれたとき、本当にうれしかった。
おめでとう!
憧れの東京生活、満喫してね!
「努力は必ず報われるとは言えないけど、努力をしているとチャンスは巡ってくる。だから努力は必要だった。」
これは、「あるひとつの夢を叶えた」みんなの先輩からの言葉だ。
この言葉とともに、夢現塾の後輩たちにエールを送ってくれた。
次はみんなの番だ。
