夢現塾では、小学生の算数の授業で百ます計算を行っている。毎回同じ数字の並びで、毎回タイムを計る。3月は1桁の数字の足し算を継続して行っていた。
3月初回の授業では、百ます計算をやるのだと伝えると「やり方忘れた~」「え~大変そう」と苦言を呈していたものの、実際にやってみると少しずつ百ます計算の魅力に気付き始めたようで、3月の後半になると「今日も百ます計算やるよね?!」「今日やったら2分切れる気がするから!」と百ます計算を求める声が増え、「百ます!百ます!」と熱烈なコールをするクラスもあるほど、意識の変化が起きていた。
『前回の自分を超えられるように、“速く”かつ“正確に”ね!じゃあ、準備はいい?』
授業で百ます計算を行うときは、この決まり文句から始まる。教室がシーン…と静まり返り、全員のペン先がプリントすれすれの位置でピタッと止まって、スタートの瞬間を今か今かと待っている。
『用意…はじめ!』
カッカッカッカッ…。スタートの合図とともに全員が勢いよく数字を書き始める。真剣な表情で、一つひとつの計算を素早くこなしていく。静かな教室に、ペンを走らせる音だけが響く。
「終わった!」
そして、ペンを机に置く音と同時に、声が上がる。私からタイムを聞くと、記録用紙に記入。それぞれ前回の記録と比べながら、嬉しそうな表情の子もいれば、悔しそうに頭を傾ける子も。次々と完了を知らせる声が私に届き、一人ひとりにタイムを伝えていく。
全員が解き終わると、さまざまな声で教室がいっぱいになる。
「先生、僕1回目から何秒速くなったと思う?」と記録用紙を胸に当て、ニコニコの顔で聞いてくる子。
「惜しい~!もう1回やったら2分切れそう!」と2分まで残り数秒のタイムを指さし悔しがる子。
「1分32秒?!すげ~!」と友達の記録を見て感心する子。
終了直後はいろいろな反応が見られるが、また次の週になると「先生、百ます計算やろう!」という声が複数人から聞こえる。そのハマりように、私は驚きと嬉しさが入り混じった気持ちになる。…いや、95%は嬉しさが占めている。誰かにやらされるのではなく、自ら意欲的に取り組めるというのは、本当に素晴らしいことだからだ。
3月のはじめは、途中で手の動きが何度も止まってしまったり、時間内に全部のますを埋められなかったりと慣れない百ます計算に苦戦していた子もいた。一番乗りの子が「終わった!」と勢いよくペンを置く音を聞いて、焦りながらまだ残っている分を頑張って計算している姿も見られた。
しかし、誰も途中でペンを置いて諦めることはなかった。
毎週の継続の結果、全員が次第にスピードを上げて計算できるように。記録用紙のタイム記入欄の横にある「記録更新」の枠には、途切れなく丸印がついている子もいる。計算の正答率もほぼ100%。この調子で、4月以降に百ます計算をやる際も、どんどん自分の記録に挑戦していく姿が楽しみである。
一見、簡単な計算をやっているだけに見える百ます計算だが、“速く”かつ“正確に”解いていくことで、計算力はもちろん集中力も身につく。その集中力は、算数の勉強でも、算数以外の教科の勉強でも役に立つ。そして、一つひとつの計算、一つひとつの行動をテキパキできるようにしていくことで、時間や心に余裕のある生活が送れるようになる。
この百ます計算で身についていく力が、そうやって算数以外のところでも生かせるようになることを願っている。