最初に断っておこう。今回も野球ネタである。
千葉ロッテマリーンズの佐々木朗希投手が「完全試合」を達成した。しかも13者連続奪三振のプロ野球新記録のオマケつき、いやオマケどころではない大記録つきでだ。
※完全試合…相手チームのランナーを1人も出さずに勝利すること。フォアボールやエラーも許されないので、ピッチャーだけでなく守備の人たちもミスが許されない。
日本のプロ野球では28年ぶりの快挙であるが、その数年前、ある1人のピッチャーが完全試合を成し遂げようとしていた。・・・僕である。
少年野球(小学生)でピッチャーだった僕は、ある大会の試合で完全試合ペースで投げていた。自分自身は完全試合のことはあまり気にしていなかったと思うが、回を重ねるごとに周りの大人たちがざわつき始めたのはよく覚えている。
「あと1回抑えれば完全試合だ!!」
監督にそう言われマウンドに立った僕は簡単に1アウトを取った。とその時、周りの異様な雰囲気をようやく感じ取ってしまったのか、ここで『緊張』が誕生してしまったのだ。こうなってはコントロールができずフォアボールを出して完全試合は終了。結局、ノーヒットノーランで勝った(これでも十分すごい)のだが、周りの大人たちの興奮が一気に冷めたあの感じは今でも忘れられない。
そしてそれ以上に忘れられないのはその相手チームの監督の対応。別の大会で再戦したときの相手監督のいちゃもんがものすごかったのである。試合開始直後、僕が数球投げただけでその監督が「タイム」をかけ、審判団に文句を言いに行くのだ。
「今のボールは落ちた!」
少年野球のルールで変化球が禁止だったため、僕はスピードを使い分けていたのだが、遅いボールが地球の引力に引っ張られて落ちるという当たり前の現象を、その監督は「変化球」を投げているといちゃもんをつけてくるのである。
僕が遅めの球を投げるとボールはベース前で失速して落ちる。そのたびにベンチで「落ちた!」と叫び抗議に出てくる。今度はボールの握り方がおかしいと僕に聞こえるように審判に詰め寄る。3本の指ではなく4本の指でボールを握っていると。相手ベンチからからピッチャーまでのあの距離で、僕の投げる瞬間の指の本数が見えるという何とも恐ろしい動体視力の監督だ。
少年野球では礼儀礼節を教わるものだが、あんな監督に指導されている選手がかわいそうだと思ったものである。心理的に動揺させる相手監督の作戦かもしれないが、僕には逆効果で、あの時の大人以上に冷めた気持ちになって、試合を全く楽しめずに淡々と投げていた。
・・・なんてことを思い出した佐々木投手の完全試合。少年野球ではなくプロ野球というハイレベルの中での本当にすごい記録である。
おそらく対戦相手になったオリックスのバッター陣は、あの時の監督のように佐々木投手にいちゃもんをつけることはないだろう。彼のすごさを認めた上で、次回はリベンジを果たそうと必死に分析し、対策を練り、実行するであろう。一方で佐々木投手もそれを上回るピッチングで再びねじ伏せるかもしれない。いずれにせよお互いが高め合ってさらにすばらしい試合を見せてくれるに違いない。
周りで活躍している人がいるとき、すごさを素直に認める。簡単そうでこれが意外と難しい。でも、自分を高めたいのであれば、まずはここからではないだろうか。素直に認めれば見えなかったものが見えてくる。「なぜ」、「どうやって」と考え、自分に取り入れることができるのなら、最高の教科書がすぐそばにあるということだろう。