ふと昔のフォルダを探っていると、ある人との写真が出てきた。
当時は誰かも分からない。独りぼっちで、一生懸命声を張り上げ呼び込みをしていた人。今から10年前ぐらいだろうか。
「
僕、ピンで活躍している〇〇と言います。よろしくお願いしまーす!」
と、明るい声かけと共にとびきりの笑顔と大声を絶やさず、自らチケットを手売りをしている姿。
その一生懸命さに惹かれ、一緒に写真を撮ってもらったことを今もはっきり覚えている。
…そんな写真の存在すら忘れかけていた数年後。私はその人と再びテレビ画面越しで再会することとなった。
【M-1グランプリ2018】
なんと、彼はピン芸人ではなく、相方を連れ、紛れもなく漫才頂上決戦の選ばれし8組にいたのだ。
私は目を疑った。(
あれはもしかして…あのときの…)
画面に映るたびに、目線で必死に追いかけた。そして、私のデータフォルダにある写真と見比べる。
(
間違いない、あの人だ。)
私はそのとき確信した。この写真は宝物になるかもしれないと。
出場順が、くじでどんどん引かれていく中、彼らのコンビ名はなかなか呼ばれなかった。一度写真を撮って少し話しただけの人というだけで、異常なほどの親近感。こちらまで緊張してきてしまう。
とうとう残りラスト2組というところで、彼らの名前が。
司会の上戸彩さんの引いたくじには、『
霜降り明星』と書かれていた。
そう、私が一緒に写真を撮った相手とは、今やテレビ、CM、動画アプリでは見ない日はないほど活躍している、霜降り明星の粗品さんだったのだ。
彼らが言葉を発するたびに、笑いに包まれる会場。画面越しからでも会場が温まっているのを感じるほどだった。「沸かせる」とはこういうことなのだろう。彼らの世界観に私も会場も一瞬で飲み込まれていった。
案の定、彼らはその日一番の高得点を叩き出し、決勝戦へと突入。
ひたすら会場を笑いの渦に巻き込み、そして最後には“
M-1グランプリ2018の王者”となったのだった。
私はいまだにこの2018年のM-1グランプリを繰り返し見るが、最後のインタビューで粗品さんは、泣きながらこう答えるのだ。
「
母ちゃんと父ちゃんに感謝したいです。」
そして優勝後、別の番組で優勝賞金1000万円の使い道を聞かれた粗品さんは、
「
お母ちゃんが欲しがってた物を10個買いたい」と話したそうだ。
実はM-1よりも以前に、霜降り明星は関西若手お笑いの登竜門と呼ばれる【ABCお笑いグランプリ2017】で見事優勝を果たしたようだが、このときの優勝賞金100万円の使い道を聞かれた粗品さんはそのときも号泣しながらこんなふうに答えた。
「
お母ちゃんに使いたい。大学も中退して迷惑かけたんで親孝行したいなと。まずは温泉旅行に連れていきたいのと、マッサージチェアのような家電とかiPadを買ってあげたい」のだと。
一人で自分を支えてくれた母親、そして自分を育ててくれた今は亡き父親への感謝の思いが彼の一言一言から伝わってくるようだ。
あの日、必死にお客さんを呼び込み、誰が来てもニコニコと対応し、全力で頭を下げていた姿の裏には、お笑いがやりたいというのはもちろんだろうが、ご両親への感謝の思いが強く支えていたのかもしれないと、写真を見るたびに思う。
気づけば母の日も近い。
君たちが当たり前のように夢現塾に通えて、何事もなく一日を過ごせるのは、誰のおかげだろうか?
言葉で伝えなくてもいい、どんな形でも構わない。是非、日ごろの感謝を君たちなりに表現してみてはいかがだろうか?