「ウソだろ。」
もう1度確認する。
「・・・ウソだろ。」
昨年の冬期講座での1コマ。
小6の算数の授業、立体図形の体積を求める問題での生徒とのやり取りの中で、詳しい流れは割愛するが、「○○柱」から「ナウシカ」へと話題が移った時である。
「先生、ナウシカって何ですか?」
ある生徒の一声から始まったのが上記のやり取りである。
「いやいや、『風の谷のナウシカ』のナウシカだよ。」
もちろんアニメ映画『風の谷のナウシカ』を知っているかの確認だ。主題歌『風の谷のナウシカ』を安田成美が歌っていることを知っているかを聞いたわけではない。
「先生、知らないです。」
「ウソだろ。」
ざわつくクラスの中でもう一度確認する。
「いやいや、見たことがあるかないかは別として、名前を聞いたことぐらいはあるだろ?」
「ないです。」
「・・・ウソだろ。」
確かに『風の谷のナウシカ』は、彼らが生まれていない1984年のアニメ映画である。しかしあのアニメ界の巨匠、スタジオジブリの宮崎駿監督の作品として何度もテレビ放映されているので、さすがに1度は耳にしたことがあると思っていたのだった。(『風の谷のナウシカ』はスタジオジブリ設立前の映画)
「じゃあ『天空の城ラピュタ』は?」
「知らないです。」
「・・・ウソだろ。」
余りのショックに各校舎で宮崎駿作品認知度緊急アンケートを行ったところ、監督初期作品のナウシカやラピュタだけでなく、『魔女の宅急便』も知らない生徒がいることが判明した。そんな初期作品でも『となりのトトロ』の認知度だけはどのクラスでも100%。トトロ恐るべし。
ところで『風の谷のナウシカ』の
原作漫画が、中1国語の教科書91ページの
「読書案内」の中に掲載されてることを知っているだろうか。実はこの漫画の方に僕は思い入れがある。
僕が小学生の時だった。アニメ映画『風の谷のナウシカ』をテレビ放送で初めて見たとき、感動とともに何か複雑な感情が沸いた覚えがある。その後、この作品は宮崎駿氏が漫画として連載していたものを映画化し、しかもその漫画の連載は続いていることを知った。複雑な感情の理由はそこだった。映画では何かが物足りないと感じたのだろう。気になってすぐに単行本を買った。が、当時小学生の僕には難解・複雑で奥が深い内容で、理解できない部分が多かった。それでも分からないなりに何度も読み直した覚えがある。
ちなみに映画の内容は原作漫画全7巻のうち2巻の途中までの部分をベースにしたものである。その後の展開は映画のような明快な感動物語とは一線を画す内容だ。
漫画の連載は宮崎駿氏が多忙で何度も休載をはさんだため、続きを読みたくても読めない状況が続いた。連載が完結したのは映画上映から10年後の1994年、僕が高校を卒業した年だった。
大学生になって読み直したとき、今までは理解できなかった部分に光が射した。自分がさまざまな経験をし、多くの知識を蓄えた結果であろう。戦争、宗教、環境問題、文明の発達と崩壊、人間のエゴ、そして作者の葛藤…。この作品に対する理解力が一気に高まったのを感じた瞬間だった。
就職で転居の際に一度は処分した単行本を古本屋で揃えたのは30歳のとき。どうしても読み直したくなったからだ。その時の理解が大学生の頃より一層深まったことを感じた。そしてその後も何度か読み直すごとに、新たな理解や発見があり、そして色々と考えさせられる非常に奥深い作品だ。個人的におススメである。
あの時理解できなかった単元、あの時解けなかった問題。
経験と知識を重ねた今なら理解できるかもしれない。
新しい年を迎え、新たな気持ちでもう1度見直してみよう。
きっと光が射す瞬間が訪れる。