小学生の頃、通学路の中古車センターに犬がいた。かなりの大きさの犬だったと記憶している。
僕を含めた数名の男児が、給食の残りのパンを毎日のように与えていた。
最初は、ずいぶん喜んで食べていたのに、飽きたのだろうか?徐々に、僕らが近づくと唸るようになっていった。
犬の気持ちがわからない僕らは、パンの残りをどうしても食させたくて、半ば強引に、犬の口に入れようとした。
その時だ!!恐ろしい表情で僕の腕に噛みつき、その直後には、そこから血が噴き出した。
あの時の痛みは遠い過去のものだが、あの犬の目つきだけは忘れられない。
『お前を噛み殺す!』そんな恐ろしい目だった。この事件以降、どんな犬も怖くて仕方がなくなった。
例えば、歩行中、前方から犬がやって来ると大回りする。
友達の家に犬がいると大声で呼ぶか、近くの公衆電話から連絡し、押さえつけてもらっていた。
今でも、自宅マンションのエレベーターに犬が乗ってくると、僕は慌ててエレベーターを降りる。
僕が階段を下り、犬様がエレベーターで降りてくる。納得がいかないが、やむをえない。
僕にとっては、狼やライオンよりも怖い存在なのだ。
そんな僕に対して、一人娘は、幼稚園の頃から屋内で飼える犬を欲しがっており、何度も交渉をもちかけてきていた。
「高学年になって、一通りの世話ができるようになったらね…」という条件を出して先延ばしにしていた。
今年は小5生、とうとうその時が来てしまった。娘も要求してくる。無理やり一つの条件を加えた。
「半年前にプレゼントした一輪車がまだ乗れていないじゃないか?欲しいのは最初だけなのか?ちゃんと乗れてから言えよ!」
正直、かなり先延ばしにできるはずだと考えていた。
「わかった!」という涙目の返事とともに、ゴールデンウィークを使って猛練習を始めたのだ。
そしてわずか数日後、「パパ~」と、両手でバランスをとりながらすいすいと乗りこなしてしまった。
ここまできたら、もう観念するしかない。
自分の人生に絶対あり得ないと思っていたが、幸田校の生徒が教えてくれた評判の良いペットショップに足を運ぶことにした。
そして、生後2ヶ月の雌の子犬が我が家の一員となり、「プリマ」と名付けられた。
ところがだ…
来てからというもの、気になって仕方がない。思っていたのと異なり、全く吠えないのだ。
「死んでいないか…?」
不安になって、心配して、段ボール箱を覗くと、嬉しそうにして尻尾ををふってくる。
「かわいいじゃないか…」
不思議で妙な感情が芽生えてきた。
翌日、またまた様子を確認すると、つぶらな瞳で甘えた表情をしてくる。
ちょっとだけ触れてみよう。ぺろぺろっと指を舐めてくる。
「マジか!ヤバい!可愛いかもしれない…」
ウンチをみた。どんぐりのような小さなウンチが2つ。こんなものまでもが可愛い…。
「なんなんだ、この感情は…!」
飼い始めて2週間経過。不思議なことに、帰宅も少し早くなった。
「プリマに会いたい…」
深夜であっても、足音に気づくのだろうか。「くうん~くうん~くうん~」と甘えた声を出して迎えてくれる。
「プリマ!超かわいいーーーーーーーーーーー!」
犬にこんな感情を持つなんて…考えてもいなかった。
先日は子犬用のおもちゃを2つ購入。健気に遊ぶ様子が、また何とも言えない。
子犬用の浴衣も買いそうな勢いだったが、なんとか我慢した(笑)
残すところ、世の中の敵は「セロリ」だけ(?)となった。