幸田校に着き、車から降りると、ゾロゾロのそのそ歩く男の子集団と遭遇した。そのうちの一人は私を見るなり、「あ、あーりん！こんにちは！」と笑顔で手を振った。
いつもマスク姿のため、一瞬誰だろう…戸惑ってしまったが、すぐに中2の生徒だと気づき手を振りかえした。私とは面識のない他のお友達も、「あーりん先生こんにちは！」と挨拶を交わしてくれた。
数分後、また同じような集団が幸田校の前を通過していく。
みんなこちらをジロジロ見ながらゆっくりと歩いていく。
（塾生かな？いや、塾の中が気になるだけか。）と視線を感じつつも、授業の準備をしていく。が、大名行列かのごとく途切れないその列。もちろん塾への視線も途切れることを知らない。
（今日はなにかのイベントなのかな？塾生なら手を振ってあげたいんだけどなぁ。）と、私も彼らをジロジロと見返すこと数十分が経過。
すると、「せんせーーーーーー！」という叫び声と共に、再び男の子数人がこちらに手を振っている。その声に、私は思わず校舎を飛び出した。
「今日どうしたの？なにこれ？なんのイベントなの？」
すると、満面の笑みで口々に「蒲郡の竹島まで歩いてきた！」と言うではないか。
絶句した。
グーグルマップで調べると、スタート地点である中学校から竹島までは片道12km、所要時間は2時間28分と表示されている。
往復となれば、ざっと約5時間、そして向こうでの観光する時間もあることだろう。かなりのハードウォーキングである。
にも関わらず、通る子みんながニコニコ歩いている。その後も、疲れを見せずこちらに笑顔で手を振っていく塾生所属のグループが何組か通過していった。
が、ふと不安がよぎる。そう、この日の彼らにはのんびりしている暇はない。
2時間後には塾、そして特訓テストも待っているからだ。
（みんな今日は欠席かなぁ。）と大量欠席を覚悟しながら、今日の授業の準備を進めていく。
が、驚くことに２時間後、ほとんどの生徒がそろっていたのだ。中には早めに来て自習をする者まで… みんなの根性に感心したのはもちろん、疲れていてもちゃんと塾に行く、行きたいという気持ちが心の底から嬉しいと感じた瞬間だった。
残念ながら、ウォーキング後に熱中症を発症したり、体調を崩してしまった子もいたため、全員が塾に揃うことは叶わなかったが、塾に来た子は来た子で、誰一人として「帰りたい」「眠たい」などの弱音は一切吐かなかった（筋肉痛には悲鳴をあげていたが…笑）。
なんのために？なんの意味があって歩かせるのだろう？
きっと私が学生で彼らと同じ状況にいたらこんなことをブツブツ言いながら、だらだら歩いていたことだろう(笑)
おそらくこのイベント自体に大きな意味はないのだ。
しかし、本当に歩ききれるのか、途中でリタイアするのか、仲間割れするのか、意外と余裕なのか、歩ききったあとにはどんな気持ちになるのか、は実際に経験しないと分からないもの。
一生のうちにこういう経験が何度できることだろう。約５時間もの間、ひたすら歩き続けるなんてことを、一度も経験せずに一生を終える人も確実にいるはずだ。
陳腐な言い方ではあるが、彼らは間違いなく、「
いい経験」をしたのだ。
「
人は経験からしか学べないもの」
経験している瞬間は、足が痛い、暑い、苦しい、終わりが見えない道のり、と苦しいことばかりだが、数日、数週間、数か月、数年、数十年経ったころにふと振り返ると、「あのとき歩ききった自分偉いなぁ」「そういえばあの後塾にまで行って、あのときの自分若いのによく頑張ってたよなぁ」とどこかで必ず自信に繋がるものだ。
人生に無駄なことなどない。その経験値は、人生の糧となり、自分の力となる。
どんなことでもいい、やりたいこと、やってみたいこと、たとえやらされたことでも、すべて「
いい経験」として、彼らのように貪欲に、そして楽しみながら笑顔で取り組んでみよう。
