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彼は持ってる。(加) | 愛知県岡崎市・幸田町の夢現塾

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彼は持ってる。(加)

2016.10.24

ある日の休憩中。夕ご飯そっちのけで携帯片手に検索をかける。

文字を打ち込む指に迷いはない。私が知りたいのはただ一つ。「宝毛」。

この数分前、私は人生で初めてその「宝毛」とやらに出会ったのだった。

出会いは何の前触れもなく訪れた。塾に現れた小5の男の子。

「先生久しぶりだー！」

と口を開いた時、私はある物に気が付くのであった。

彼の鼻のあたりに、何かが垂れている。

蜘蛛の巣のような…いや、光る糸のような…とにかくキラキラしたもの。

(掃除でもして、何か付いてしまったのだろう)

彼が喋るたびに、その糸は左右上下に揺れ続けている。どうも気になって仕方がない。

言いたくて言いたくて、私は教えてあげるタイミングを今か今かと待っていた。

そしてその瞬間がやってきた。

(い、今だ…！)

「ねえ、あのー…な、なんかついてるよ？というより垂れてるのかな。その鼻の辺に…ほら。」

わたしは光る糸を指差し、こう指摘した。

が、彼は驚きもせず、その糸をおもむろに摘むと、

「ああ、これか。宝毛。」

と何食わぬ顔でつぶやいた。

宝毛。人生で初めて聞いた言葉。

タカラゲ…

よく見るとそのキラキラ光る物は糸ではなく、毛。しかも左眉に繋がっている。

眉のうちの一本だけが、鼻の下あたりまでずーっと伸びて垂れているのだ。

(ナンナノダコレハ…)

生まれて初めて見る宝毛をまじまじと見つめ、私は勇気を出し、願いを口にした。

「引っ張ってもいい？」

大きく頷いた彼。さあ、許可は下りた。

恐る恐る、宝毛を優しく、優しく引っ張ってみる。

だってただの毛ではない、宝毛様だもの。

私が引っ張る動作に合わせ、皮膚が引っ張られる。

(間違いない、確実に毛だ…！すごい…)

「し、写真撮ってもいい？」

興奮のあまり、もう許可を得る前には、すでにカメラを構えた状態になっていた。

「ああ。いいですよ？」

まるで芸能人の様な返答だった。

早速一枚撮ってみる。だが、毛が認識できない。よし、もう一枚。しかし、やはり毛がよく見えない。

困っている私に彼は

「壁とか、カーテンとかの少し色があるところで撮ると写りますよ」

宝毛を撮られることに異常に慣れている彼。

おかげで無事に、宝毛様を写真におさめることに成功した。

その写真がこちら。

お分りいただけるであろうか。毛先がほとんど金髪状態のため、写真では見づらいかもしれないが、10cmは越しているであろう。

この長さ。宝毛と言う名の、眉毛である。

「まだ伸ばし続ける。だって願いが叶うから」

彼はこう言うと去って行った。

これが、私と宝毛との出会い。

そして、目の前の携帯画面に「宝毛」の情報が映し出されている理由なのだ。

宝毛（たからけ、たからげ）とは、体の一部分に一本だけ長く生えてくる透明もしくは白色の毛の通称。福毛とも呼ばれる。伝承として、「福をもたらす」「幸運を呼び寄せる」などといわれている。これは、宝毛の「白い」「一本だけ突出して長い」などの特徴が、仏の額に存在する「白毫」の特徴と通じる部分があるためではないかといわれている。幸運の象徴である。保有率は1割。自然に抜けた時は、願い事が叶う。

きっと彼の宝毛に触れた私は幸運になれるのではないか、と密かに事務室でニヤニヤしている私。神様、仏様、宝毛様。是非私も30本ぐらい生やしてほしいです、と願うばかりであった。その内1本の願いはもちろん、「夢現塾生の夢が現実になりますように」だ。(どや顔)