台風と秋雨前線に翻弄された、今年の9月。
雲が空を覆い、ビタミンDを生成するのも難しそうな日が続いた。
そんなどんよりとした空模様とは対照的に、夢現塾の教室には、どこかハートフルな空気が流れていた。
小学5・6年生は、約1カ月半をかけて、それぞれ75語、100語の英単語習得に挑戦している。中学校に上がるまでに、小学校で学習する英単語を少しずつ積み上げていく。75語と100語は、そのカリキュラムの一部だ。もちろん、2学期から入塾した生徒も無理なく取り組めるようになっている。
さて、英単語の覚え方だ。
やみくもに何度も書くだけでは、なかなか覚えられない。まずは、読めるようにすること。次に、意味が分かるようにすること。そして最後に、書く練習をすること。この順序を守ることで、より効率よく英単語を覚えることができると考えている。
授業で発音を確認していたときのことだ。
英会話の経験の有無にかかわらず、最近の小学生は、英単語を見てある程度読める子が増えたように感じる。英語が以前より日常にあふれているからなのか。小学校で英語が教科になったことも、その一因なのかもしれない。とはいえ、確認は必要だ。
「リピート・アフター・ミー」
どこか懐かしい言葉だろう。
僕の発音に続いて、生徒たちが声を出す。真似がうまいのか。耳がいいのか。それとも、英語を耳にする機会が増えたからなのか。理由は分からないが、生徒たちの発音はなかなかいい。
中でも耳を引いたのが、6年生の “supermarket” と、5年生の “pizza” だった。
そこで、校舎対抗の「発音選手権」を開催することにした。
といっても、僕が教えている2つの校舎だけの、小さな大会だ。審査員は、中学生の先輩たち。小学生には、ボイスレコーダーに向かって発音してもらった。録音されているのは、もちろん声だけ。その音声を中学生の先輩たちに聞いてもらい、どちらの校舎の発音がいいかを審査してもらった。
「Aの方がいい!」
「いや、Bでしょ」
意見が教室を飛び交う。彼らなりに、真剣に審査している。ところが、聞いているうちに気づいた。どうも彼らが評価しているのは、発音だけではない。
「こっちの方が声が大きい」
「こっちの方がかわいい」
姿は見えていない。聞こえているのは、声だけだ。それでも、いつの間にか審査基準は彼ら独自のものになっていた。発起人の僕が言うのも本末転倒だが、そもそも今の時代、発音の「良し悪し」を一つの基準だけで決めること自体、あまり意味がないのかもしれない。世界には、さまざまな英語がある。ネイティブのように発音することだけが、英語学習の正解ではない。それでも、学び始めの段階では、まずお手本となる発音をよく聞き、それを真似てみることは大切だと思っている。
聞いて、真似て、声に出す。そうやって少しずつ、自分の英語になっていく。小学5年生の “pizza”。小学6年生の “supermarket”。子どもらしく、元気いっぱいで、どこか楽しそうな発音。その声を聞いていた中学生の先輩たちの顔には、自然と穏やかな笑みが浮かんでいた。せっかくなので、今度は中学生の先輩たちにも “supermarket” を発音してもらった。そして、その声を5・6年生の後輩たちに聞いてもらった。
「おぉぉぉぉぉぉ!!!!」
教室に、歓声が上がった。
後輩の英語を聞いて、頬を緩める先輩たち。
先輩の英語を聞いて、目を輝かせる後輩たち。
9月の空はどんよりしていたけれど、教室の中は、なかなか明るかった。
