中学3年生の授業で登場する井上ひさしさんの『握手』という作品。
この物語、私自身が中学生だった頃にも国語の教科書に載っていた作品だ。
当時は“生徒”として読んでいたこの作品を、今は夢現塾で“教える側”として再び読むことになった。
卒業以来すっかり記憶の彼方に置いてきた物語だったが、入社したばかりの頃、授業準備をしていると少しずつ当時の記憶が蘇ってきたのを今でも覚えている。
変わらない挿し絵。
そして、オムレツという単語。
「そうだ、こんな話だったなぁ」
そんな懐かしさを感じながら、予習を進めていた。
この作品の中で、ルロイ修道士と主人公が訪れる“上野公園に古くからある西洋料理店”。
そのモデルとなっているのが、『精養軒』というお店だ。
私はずっと、「いつか行ってみたいな」と思っていた。
20代前半の頃の私にとって、精養軒はどこか“背伸びをして行く場所”だった。
マクドナルドとサイゼリヤに絶対的安心感を抱いていた私は、「私みたいなのが行っていいのだろうか」と勝手に身構えていたのだと思う。
が、30代半ばになった今、不思議とそんな感覚はなくなっていた。
少し大人になったのかもしれない。
私は毎年、新年になると「やりたいことリスト100」を書いている。
今年の初め、その中にふと、
「上野の精養軒に行く」
と書いた。
だが、そんなこともすっかり忘れて過ごしていた。
ところが先日、東京へ行く用事があり、友人との「何を食べるか会議」の中で、自然と精養軒へ行く流れになったのだ。
その日の上野は、青空が広がる気持ちのいい天気だった。
優しい風が吹き、上野公園の青々とした木々が揺れている。
そんな景色の中を歩きながら、私は友人と共に精養軒へ向かった。
足取りは、思っていたよりずっと軽かった。
せっかくなら、とランチメニューと一緒に単品で頼んだのはもちろん、ルロイ修道士が注文した「プレーンオムレツ」。
運ばれてきたオムレツは、きれいな黄色をしていて、湯気と一緒にバターの香りがふわっと広がった。
ナイフを入れると、とろりとした卵がゆっくり溢れ出す。
まさに、ふわふわ、とろとろ。
作中では、ルロイ修道士はそのオムレツにほとんど手をつけないのだが、一口食べた瞬間、思わずあの台詞が頭をよぎった。
「おいしいですね、このオムレツは。」
そして同時に、ルロイ修道士のこんな言葉も思い出した。
「仕事がうまくいかないときは、この言葉を思い出してください。
『困難は分割せよ。』
あせってはなりません。
問題を細かく割って、一つ一つ地道に片づけていくのです。」
精養軒を出たあと、「やりたいことリスト」がまた一つ叶ったなぁ、と満たされた気持ちになった。
友人と他愛もない話をしながら、駅までの道を歩く。
その足取りは行きよりさらに軽く、途中で思わずスキップしたくなるくらい、いい一日となったのだ。
中間テストが終わった今、結果を見て焦ったり、不安になったりしている人もいるかもしれない。
でも、一気に全部を完璧にしようとしなくていい。
1教科ずつ、1単元ずつ、いや1単語ずつでいい。
1つずつやれることから丁寧に復習していこう。
そうやって“小さく分けて”、一つずつ積み重ねていけばいい。
『
困難は、分割せよ。』だ。
期末テストまでは、まだ時間がある。
今回できたことはそのまま伸ばして、悔しかったところは次のチャンスで取り返せばいい。
焦らず、一歩ずつ。
ルロイ修道士の言葉を胸に、また次のテストへ向かっていこう。