「雪舟(せっしゅう)」
日本美術史上、重要な画家の1人で「画聖」とも称される人物。水墨画を大成したとして小学校の歴史でも習うカリスマ的存在。彼が描いた絵が国宝に6件も指定されているという事実だけでも突出した人物である。
室町時代(戦国時代)の1506年に没した後、約100年後の江戸時代にはすでに偽物が出回っていたそうだ。偽物といっても、だますための悪意のあるものもあれば、コピーのない時代に誰かが雪舟の絵を真面目に写したものが、いつの間にか本物扱いされてしまったものもある。現在雪舟の真筆と認められている作品は20数件だけ。TVの鑑定団では「雪舟の本物か!希望評価額は〇億!」とあおり、結局偽物というオチは定番の1つである。
と雪舟について書いたものの、日本美術に興味がある割には昔から雪舟の絵はなぜか好きになれなかった。本物を見たわけでもなかったので、要は「食わず嫌い」である。2017年に開催された京都国立博物館の「国宝展」で、雪舟の国宝6件が一度に公開された期間があったのだが、別の期間の展示品(教科書でおなじみの「金印」や「伝源頼朝像」など)の方に圧倒的な魅力を感じてしまい、雪舟の食わず嫌いは継続していったのだった。
ところが去年、美術雑誌にあった2024年展覧会スケジュールで「雪舟」の文字を発見した時、なぜか「見たい」となってしまった。その場でGW(ゴールデンウイーク)に行くと脳内で確定し、月日は流れていった。
GWの合間の平日とはいえどもやはり京都。京都駅には国内外の観光客であふれていた。京都国立博物館方面のバス乗り場には長蛇の列。多少は覚悟をしていたものの、以前東京で開催された「伊藤若冲展」で入場までに3時間以上並んだ時の苦痛が頭をよぎった。少しでも時間短縮のためタクシーで向かう。
博物館に着いて入場口を見ると・・・。拍子抜けしてしまうほど人がいない。ニュースでよく流れる混雑時のディズニーランドのゲート前のように人が溢れている風景を想像していただけに、まさかの「閉館日」に来てしまったのかと思ってしまうほど。これはうれしい誤算だ。
おかげでゆっくりと館内を2周し、じっくり鑑賞。食わず嫌いだった雪舟の凄さを実感することができた。やはり写真や映像と「実物」は全然違う。まさに「百聞は一見にしかず」である。
今回のチャンスを逃していたら、「食わず嫌い」のままで終わり、いつか後悔していそうな自分の未来が見える。やらなかった後悔をするのは本当にもったいない。大満足の裏側でふと思ったことだった。