あれは「心の叫び」なんだろう。
おそらくそう無理やり自分を納得させてから約30年。あの時の疑問が脳裏によみがえった。
先週のあるクラスで音楽の話題になり、「お気に入りのこれだ!という1曲はある?」と生徒たちに聞いてみた。自分が思っていた以上のクラスの3分の2ほどが手をあげた。
歌詞やメロディーが良いから、好きなアーティストの曲だからといったものや、学校での合唱で歌ったからなど理由は人それぞれで、暇なとき、気合を入れたいとき、落ち込んだとき、気分転換をしたいときなどと聴くシチュエーションもその曲調に合わせてこれまた千差万別であった。
「自分は歌詞がいいなと思う歌がお気に入りになることが多いよ」なんて話をしながら、今まで自分がどんな歌が好きだったかを思い出していると、小学生の音楽の時間に歌ってとても気になっていたある歌の歌詞がよみがえったのだった。
「クラリネットをこわしちゃった」である。
パパからもらった大切なクラリネットが壊れてしまい、音が出なくなってしまった状況に陥った子どもの「どうしよう、どうしよう」と困ったセリフの歌詞のあと、突如として
「オー パッキャマラド パッキャマラド パオパオパンパンパン オー パッキャマラド パッキャマラド パッキャマラド パオパオパン」
と続く謎の呪文のような歌詞を、リズムよく、そして元気よく歌わされたことに???となった。先生に呪文の意味を質問したが明確な返答はなく、パニックになった子どもの「心の叫び」だと最終的に自分に納得させたのだった。
数十年ぶりによみがえり、心をもやっとしたうすーい霧に包んでくれた謎を解決すべく、帰宅後さっそく文明の利器インターネットで調べてみた。原曲はフランス語で、クラリネットが壊れたのではなく、ドの音が出なくなって(うまく出せなくて)慌てる息子に対して、『オー パッキャマラド(Au pas, camarade)』は「一歩一歩だ友よ」と父親が励ましているセリフなのだそうだ。(あくまでも説の1つらしいが…)日本語の歌詞がつけられたときに、クラリネットが壊れたことになったようだ。
『ちゃんと練習しないと音は出ないよ、一歩一歩コツコツと前進していくんだよ』
謎の呪文でも心の叫びでもなく、非常に奥深いメッセージが込められた歌詞であったことで心の霧がきれいに晴れたので、最近お気に入りの曲「流動体について」を聴き、パソコンの電源を落とした。