夕暮れ時、彼らは突然やってきた…。
コンコン。
岡崎本校の2階の事務室の扉をノックする音が聞こえた。
事務室には僕1人しかいない。
僕は小走りで扉に近づいた。
そこには2人の外国人男性が立っていた。
2人とも2m近い身長…。
2人とも満面の笑顔…。
そして2人ともメガネをしていて、2人ともメガネが曇っている…。
「ボクタチ、リュウガクシテイマス。ウクライナカラ、キマシタ。」
1人が片言の日本語で話し始めた。
「ニホンノガクヒ、トテモタカイ。コレ、カッテクレマセンカ?」
取り出した木製の小箱は、手作りのとても質素なものであった。
中を開いて見せてきた。
ネックレスやら、ブレスレットやら、キーホルダーやら、民芸品っぽいものが、ぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。
『これは何か買ってあげた方がいいのか?』
そう思いながら、僕はビーズにゴムを通しただけのブレスレットのようなものを手に取った。
『きっと300円くらいだろう。』
そう思い聞いてみた。
「これいくらですか?」
「1500エンデス。」
「…。他の物は、いくらくらいですか?」
「コレハ2000エン。コレハ3000エン。」
ほのぼのとしていた空気が一変した。
安そうに見えた民芸品すべてが、破壊力抜群の金額であった。
もちろん『買わない』という選択肢もある。
しかし値段を聞いといて買わないというのも、胸が痛む…。
「一番安いのはどれですか?」
「コレガ1000エンデス。」
変な形をしたキーホルダーであった。
「これは何の形を表したキーホルダーですか?」
「…ゴメンナサイ。ワカリマセン…。」
「そうですか…(苦笑)。」
彼らは事務室を出て行った。
そして僕の手にはキーホルダーが握られていた。
僕はウクライナ人ですら詳細不明のキーホルダーを1000円で購入した。
1階ロビーにいる彼らの姿を監視カメラで見ながら、僕は祈っていた。
『彼らがこれから日本で幸せに学べますように…。』
そして扉を開けて、笑いながら去っていく後ろ姿を見ながら、もう1つ祈っていた。
『これが外国人による詐欺ではありませんように…。』