夢現塾にはどの校舎にも自習室がある。たまに、怠惰な生徒を「強制自習室友の会」の会員に指定して無理やり来させることもあるが、基本的には、来る時間も帰る時間も自由だ。特典と言えば、「頑張っているねー」といろいろな教師から褒められること、夢現塾に山のようにあるお菓子など(3時間集中できると言われている噂のキャンディーなど)を貰えることだ。新学年となったこの時期、新たな決意で自習室に通いだした生徒がちょこちょこいる。「今年は頑張ろうと思って…」なんて言いながら通う生徒が増えてきた。この光景が毎年楽しみでもある。新中3生のある男子生徒は、ついこの前まで「豊田高専に行きたい!」と言っていたが、「岡崎高校に行きたい」と言い始めた。理由を尋ねると「友達と一緒に行こう」と約束したとのこと。こういう友達関係、最高だ!素敵だ!お互いに高め合える友情は、本当に素晴らしい。
志を高く持ち、前を向いて歩み出して悪いことなんて一つも起こらない。僕の2年目浪人時、問題集にある言葉が書いてあった。感銘を受けた記憶がある。
When you reach for the stars, you may not quite get one, but you won’t come up with handful of mud either.
星をつかもうと手をのばしてみても、なかなかつかめないかもしれない。だが、星をつかもうとして泥をつかむこともまたないのだ。
長い間、塾の教師をやっていると、仲間やライバルの存在がいかに大きいかを感じることが多い。今回は、最近感動した卒業生の親友物語を紹介したい。
主人公は女子生徒Sさん。彼女には親友Oさんがいる。Oはスーパーガールで、中学時代何度も何度も学年1位を獲得していた。地頭の良さや才能もあるだろうが、それ以上に努力の天才でもあり、さらにはユーモアも愛想もいいという凄い子。女性版のイチローといっても過言でない。授業中によく「神様、仏様、O様、頼みますよ~」と話していたのが懐かしい(笑)。周りの塾生も皆、Oの凄さを認めていたから授業中でもこの会話が成立するのだ。ちなみに3姉妹の末っ子で、近所では「優秀な美人3姉妹」だとの評判だったようだ。本人たちには本人たちなりの悩みも苦労もいっぱいあったが、周りからは、天は二物を与えた典型例に見えたかもしれない。長女は岡崎高校→某国立大学→外務省へと進み、今はインド大使館に赴任している。次女も岡崎高校→某国立大学→一流企業就職となった。
そして末っ子が、今回話題にしているOだ。SはOの人間性も尊敬し、大好きだった。そんな関係もわかっていたので、彼女が中2生の時Sに話したことがある。「SもOと一緒に岡崎高校行けよ!」と。「Oちゃんと一緒に本当は行きたいけど、いくらなんでも岡崎高校だしなー」そんな会話をした記憶がある。しかしながら、それからというもの、もともと頑張り屋のSの心に新たな火がついたのか、さらにものすごい勢いで頑張るようになった。特に、受験生になった夏の頑張りは見事だった。毎日のように自習室に通い、分厚いテキストを何度も何度も解いて弱点を潰した結果、塾内で夏休み中に行った夏期中間テストも期末テストも全教科満点だった(ちなみにOも全教科満点)。2学期以降もその勢いは止まらず、大好きなOと一緒に岡崎高校合格を見事に掴んだ。「この合格は、先生がOと一緒に岡高行けって言ってくれたからだよ。ありがとう!!」と嬉しそうに言ってくれたSの笑顔が忘れられない。「いつまでも仲良く、そしてお互いに刺激しあえよ!」と祝福したのが、昨日のことのように思い出される。
その後、Oが小学生からの夢だった医学部を目指すと言い出した。医学部受験は大変だ。3浪~5浪もゴロゴロいる世界だ。いくら優秀なOとはいえ、「覚悟して頑張れ!」と応援することしかできなかった。一方のSが塾に顔を出した。「私もOちゃんと一緒に医学部に行く!」と言い出すではないか。非常に驚いたが、過去に友情パワーを発揮して夢を叶えた実績がある。「厳しい道だけど、Sなら踏ん張れるんじゃないか!頑張り屋だから!」と背中を押したことを思い出す。そして高校卒業時、Oが某国立大学医学部に現役合格したとの報告が入った。嬉しさと共に、「さすが神様、仏様、O様」だと、周りの先生たちと騒いだのは言うまでもない(笑)。残念ながらSの方は浪人が決まった。一浪している間、何度か電話やメールでやりとりして相談に乗った。そして迎えた2回目の医学部受験…またもや女神は彼女に微笑まなかった。「どうするんだ?」すごく心配になった。もともと医師の家系で、その責任感から受験したとかいうのではない。彼女がここで医師への道を諦めて方向転換しても、誰も責めはしないだろう。しかし一番信頼出来て、一番尊敬できる相手がたまたま親友だったのだ。親友の背中を追いたい。ただただその一心で、Sはもう一浪することを決めた。彼女の母親からそのことを聞き、携帯番号を教えてもらい連絡した。すると、なんと遠方にあるOのマンションにいるではないか(笑)。既に元気づけてもらっていたようだった。「あと1年だけ頑張ります!」とSの元気な声。「来年は国公立だけでなく、私立も考えるんだよ、医学部は私立もむちゃくちゃむちゃくちゃ難しいからね。お金かかるけど、その回避方法はさっきお母さんに伝えておいたから…。」
それから一年がたった今春…彼女は見事「某私立大学医学部」に合格した。昔指導していた廣瀧先生や宮下先生と、嬉しさのあまりテンション爆上がりだったことは言うまでもない。親友同士の彼女たちが同じ道を歩むことで、同じような悩みも今後共有できて、さらに友情が深まるだろう。一生の友人は宝である。そして希少価値だ。なかなか出会えるものではない。
子どもの世界には親や教師を超越する関係が存在する。上昇気流に自分では乗れない時、うまく乗っている友達の傍にいるだけで自然と乗れてしまうことがある。ましてや、今回紹介した二人の関係のようなものを築くことができると、想像を超えた力を発揮し、未知の世界が広がる可能性がある。
夢現塾が、そして夢現塾の自習室が、そんな出会いの場になることも僕たちの願いの一つだ。
追伸
二人の小学校卒業文集の「将来の夢」はなんと「医者」であった。その頃はなんとなく書いた夢だったかもしれないが、まさに「夢+努力=現実」となった。
※両方のご家庭に掲載の許可を頂きました。